こんにちは! liang です。初夏のような暑さになったり、急に花冷えになったり、春らしい変わりやすいお天気(昨日今日は全国的に雨ですね……)ですね。何を着ればいいのか、コートは片付けても大丈夫なのか……いろいろ惑わされる毎日です。
「着る」「はく」といった、衣服を身につけることを表す言葉は、日本語と中国語で感覚の違いがあります。
日本語の「着る」は、衣類などをからだ全体や上半身を覆うように身につけるイメージですね。「セーターを着る」のように使います。
『広辞苑 第六版』(岩波書店)の「着る」の項に「現代では、袴(はかま)・ズボン・靴下などは『はく』、帽子は『かぶる』、手袋は『はめる』を用いる」とあるように、身につけることを表す言葉を使い分けています。
中国語では、セーター、ズボン、靴下を身につけることをみな「穿 chuān」と言います。さらに靴やスカートも「穿」です。
ちなみに、日本語の「ズボンをはく」の「はく」は、漢字で書けば「穿く」です。日本語では、ズボンやスカートにしか使わない「穿く」は、中国語では衣類なら何でも「穿」なんですね。
帽子、手袋を身につけることを「戴 dài」と言います。なお、眼鏡やイヤリングも「戴」です。
中国語「穿」の基本的な意味は「穴に通す」ことです。日本語の「穿つ(うがつ)」と近いイメージですね。「穴に通す」というイメージが頭にあると、セーター、ズボン、靴下、スカート、靴を身につけることが「穿」である理由がわかります。どれも筒状の穴に手や足を通して着用するものです。身につける動作に着目した言い方ですね。日本語にも「袖を通す」という言い方がありますし、納得感があります。
「戴」はどうでしょうか。日本の辞書『講談社中日辞典 第三版』には「(頭の上や身体の一部に)のせる.かぶせる」「(装身具などを)身につける」と出ています。
日本語の「戴く(いただく)」にも「頭にのせる」という意味がありますから理解しやすいのですが、中国語の「戴」はさらに意味が広いのですね。中国の辞書『現代漢語詞典 第 6 版』(商務印書館)の記述はもっとシンプルで、「ものを頭、顔、首、胸、腕などに置く」(筆者訳)とあります。
もうひとつ、ネクタイやベルトを「締める」ことを中国語では「系 jì」と言います。「系」は「結ぶ」という意味ですから、日本語の感覚と近いですね。
「穿」「戴」「系」の用例をまとめて見てみましょう。
【1】 穿 毛衣 (セーターを着る)
【2】 穿 裤子 (ズボンをはく)
【3】 穿 袜子 (靴下をはく)
【4】 穿 裙子 (スカートをはく)
【5】 穿 鞋 (靴をはく)
【6】 戴 帽子 (帽子をかぶる)
【7】 戴 手套 (手袋をはめる)
【8】 戴 眼镜 (眼鏡をかける)
【9】 戴 耳环 (イヤリングをつける)
【10】 戴 花 ([胸や髪などに]花をつける)
【11】 戴 手表 (腕時計をはめる)
【12】 系 领带 (ネクタイを締める)
【13】 系 腰带 (ベルトを締める)
【14】 系 鞋带 (靴ひもを結ぶ)
「脱ぐ」「はずす」に当たる「穿」の反義語は「脱 tuō」、「戴」の反義語は「摘 zhāi」、「系」の反義語は「解 jiě」です。
なお、日本語「着る」には「濡れ衣を着せる」といった言い回しがありますが、中国語「穿」「戴」にも慣用語がありますので紹介します。
【15】 穿 小鞋 (意地悪する) ※ 窮屈な靴を無理にはかせることから
【16】 戴 高帽子 (おだてる) ※ 昔、官吏が(背の)高い帽子をかぶったことから
ちなみに、日本語では「はく」靴は「履く」ですが、中国語ではこれまた「穿」なんですね。足を靴の穴に通しまではしませんが、中国語の「穿」の用法がわかっていれば中国語では「穿」なのも納得です。
改めて私がふだん使っている言葉について考えてみました。帽子をかぶる習慣がないので「かぶる」はほぼ使わず、上半身は「着る」、下半身は「はく」という単純な分け方。手袋、腕時計、ネクタイ、ベルトなどはすべて「する」で済ませ、「はめる」「締める」は使っていないようです。単純ですね……。みなさんはいかがでしょうか?
photo : “我和余晓曼 大脚 小鞋” by evic dong