前回の「フェイクニュース」(fake news)関連の記事を書いたときに、そもそもこの語彙の初出はいつなんだろう……という疑問が湧いてきて、いろいろ調べていましたが、やはり英語における Fake News という言葉(FAKE と NEWS の連語)はいまに始まった表現ではないようです。ENGLISH LANGUAGE & USAGE というサイトに「誰が『フェイクニュース』という表現を言い出したの?」(Who started the expression “fake news”?)という質問が投稿され、それに対して 1890 年ごろではないか?との回答がありました。まだソーシャルメディアどころかインターネットも存在しない時代ですから、いまの言葉の使われ方とは違う部分はあるのでしょう。
世界中の Google のキーワード検索で Fake News がどの程度調べられたかを見てみました(対象は、日本だけでなく、世界中の検索ボリュームになります)。
何回か検索回数が急上昇している時期があるのがわかります。2016/11 上旬は、大統領選挙(2016/11/08)の直後ですね。ちょうどこの直前にピザゲート事件が起こっています(あるピザ店が児童買春の拠点にされ、その店に米民主党が関わっていたというデマ)。このフェイクニュースは、掲示板サイト(4chan / reddit)で広まり、SNS などを媒介に爆発的に広まりました。FAKE NEWS に多くの米国民の関心が向き、検索数が急上昇したのではないでしょうか。
cf: BBC ニュース : 米民主党の「ピザゲート」? 偽ニュースや陰謀論の生まれ方 / 日経 BP ネット : ライフル男侵入事件まで発生、米国発・世界を揺るがす「ピザゲート」事件とは?
2 回めの盛り上がりは、2016/12 上旬。このとき、前述のフェイクニュースを信じたひとりの男がライフルを持ち、そのピザ店に乱入し、警官隊に逮捕されるという事件がありました(2016/12/04)。
cf: CNN.co.jp : 銃器持った男がピザ店押し入り、ネットのデマに反応 米首都
3 回めの急上昇(最も検索回数が増えた)は、2017/01 上旬。これは、ドナルド・トランプ氏に直接関わるものと思われます。彼は、2017/01/10 に “FAKE NEWS – A TOTAL POLITICAL WITCH HUNT!”(フェイクニュース – 完全な魔女狩りだ!)というツイートを投稿しています。いわゆるロシアゲート疑惑を否定するツイートでした。
cf : Wikipedia : 2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるロシアの干渉
大統領に就任する直前ぐらいから CNN など既存のマスメディアに対する名指しの批判が急速に激しくなっていきます。連日のツイートで、日本でのフェイクニュースという言葉の存在感も増してきました。ちょうどこのころ NHK の『クローズアップ現代』で「フェイクニュース特集」(2017/02/06 : “トランプの時代” 真実はどこへ / 02/07 : あなたは被害者?加害者?)が放送されました(02/07 の放送では、熊本地震の際のデマ情報や一部のキュレーションメディアの問題 ~ まとめサイト問題 ~ についても話題になりました)。以下のグラフ(日本での「フェイクニュース」の検索トレンド)に見るとおり、トランプ大統領はフェイクニュースという言葉の日本での認知度を一気に向上させた立役者であることは間違いないようです。
※ 世界の検索トレンドを見ると、前掲のグラフの緑色の部分が日本での急上昇期(2017/02/05 – 11)にあたります
- 衝撃的な記事のタイトルや内容で人々を扇動し、
- SNS などで拡散され、
- 爆発的に広まる
フェイクニュースの席巻を重く見て、ジャーナリストたちは第三者の目で真実であるかどうかの検証をおこない、Google や Facebook などはその仕組み・体制を整えるという動きに進んでいます。私たちもこの玉石混交の情報社会( = ポスト真実 = post-truth)から何でも鵜呑みにするのではなく、真実を見抜き、賢く生きていく必要がありそうです。一見おいしそうな餌にすぐに食いついつかないようにしなくてはいけないですね。
おまけ :ニュースアプリに表示されている新着記事のタイトルを見て、「おもしろそう!」と思って、クリックしてみたら、タイトルとはあまり関係ない記事だった(ガッカリ)……という経験ありますよね(「橋本環奈、天使すぎるノーバン始球式」とか。昔で言えば、スポーツ新聞の記事なんかにもそういうのはたくさんありました。「人気歌手 A さん、B さんと破局か」みたいなもの)。こういうタイトルを俗に釣りタイトルと呼びます。興味を惹くようなタイトルで、読者を釣りあげる( = 獲得する)という手法です。これによりページビューを伸ばすとか、広告収入を増やすとかそういうことを目的にやっているわけです。
こうした釣りタイトルや釣り記事のことを clickbait と英語では言います。クリック( = click)を誘うような餌( = bait)のことなんですね。この bait とは、ペットに与える餌ではなく、釣り針やわなにしかける餌なんです。無害な餌(「何だよ、読んで損した!」程度?)なら問題ないですが、おいしそうな餌には危険も……。気をつけましょう!
※ この記事のタイトルこそが clickbait じゃないかって?そんなつもりはないんですが……。
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