こんにちは、maki です。何か指示や命令を出されたときに「ラジャー!」と返事をすることってありますが、そもそもこれは何語なのでしょう。そして、綴りは? 気になったので調べてみました。
ウェブで検索するとすぐにわかりました。Roger でした。これは人名の Roger(ロジャー)と同じ綴りです。なぜ Roger という人名なのかということなのですが、説明するのはちょっと遠回りが必要です。元々この Roger は、received(受信した)という意味の無線通信での返信なのだそうです。しかし、無線通信では受信状態がよくなかったりすると聞き取りが困難になります。通信状態が悪くても相手が聞き間違えないように文字を伝えるために、軍隊などではひとつひとつのアルファベットそれぞれに特定の単語を組み合わせた表を使っていました。その中の R が Roger という単語とセットになっていて、received → R → Roger ということで、指示や命令を出されたときに受信したら Roger と答える……となるわけです。
アルファベットと単語の組み合わせは、何でもいいわけではなくて、phonetic alphabet という体系で整理された表に基づいているものなんだそうです。それで思い出したのがスタンリー・キューブリックの Dr. Strangelove: or, How I learned to stop worrying and love the bomb(『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』)に登場する B-52(冷戦時代の主力大型爆撃機)の機長 Major Kong(コング少佐)のセリフで “Target reference November Bravo X-Ray One Zero Eight” というものです。これを訳すと「目標標準、ノーベンバー、ブラボー、Xレイ、108」となります。この November は N、Bravo は B、X-ray は X を意味します。
調べてみると、この November や Bravo、X-ray、Romeo は、NATO Phonetic Alphabet(NATOフォネティックコード)で定義されているものなんだそうです。この表は、NATO(北大西洋条約機構)以外でも、ICAO(国際民間航空機関)、ITU(国際電気通信連合)、IMO(国際海事機関)、FAA(アメリカ連邦航空局)、ANSI(米国規格協会)でも採用されているものだそうです。
きっとこの phonetic alphabet の表の中では、R = Roger と定義されているんだろうと思ったのですが、同じ映画の別のセリフでは “R for Romeo” と言っています。あれ、おかしいですね。
さらに調べてみたところ、、これは Joint Army / Navy Phonetic Alphabet という体系で R が Roger と定義されたことに由来するようです。この表は、アメリカ軍によって、1941 年に開発され、1956 年まで使用された体系です。おもしろいことに、この表は以前の記事(Sandy who? Hurricane Sandy. ハリケーン・サンディは、誰が名前をつけたの?)でご紹介したハリーケーンの命名ルールとして 1947 年から 1952 年まで使われていたということもわかりました。調べてみるものですね。
先ほどご紹介した Dr. Strangelove……には、”Roger. Ready to set code prefix.” というセリフもあります。この映画は、米ソ冷戦期を舞台にしたもので、このころは R = Romeo の時代ですが、「了解」といった意味での Roger はすでに定着していたんでしょうね。作戦行動中に Romeo というのもなんだかそぐわない感じですし。
日本では、一般的に人名の Roger は「ロジャー」と綴られますが、アメリカ映画などで聞かれた「ラジャー」(rɑ́dƷər)をそのまま取り入れたんでしょうね。イギリス英語だったら「ロジャー」(rɔ́dƷə)になっていたかも?
photo : “Roger .. over and out.” by Niels Linneberg