G と呼ばれるアレ : コトバの呪力

9月 11th, 2012 | Posted by maki in 小ネタ

'Oh my god' by Francisco Martins

(お食事中の方やタイトルから想像されるトピックにセンシティブな方はご注意ください)

こんにちは、maki です。ある人の tweet を読んでいて、台所などを徘徊する褐色の昆虫を G と呼んでいるのを見かけました。そういえば知り合いにもあの昆虫のことをその名称で決して呼ばない人がいるのを思い出しました。人によっては、アレと呼んだり、逆にもうすこし具体的(?)に gkbr と書いたりする人もいます。「噂をすれば影がさす」ということなのでしょうか、あの昆虫の名前を忌み言葉を使うことでその災厄を回避しようという心理なんですかね。

日本には古来より言霊思想があって……というのはよく語られる話ですが、日本以外でもこうした忌み言葉(taboo words)などによる婉曲表現というのは、さまざまあるようです。いちばん最初に思いついたのは、南方熊楠の『十二支考』からの一節。

スウェーデンの 牧牛女うしかいめは狼を黙者だんまり灰色脚はいいろあし金歯きんばなど呼び、熊を老爺おやじ大父おおちち、十二人力にんりき金脚きんあしなど名づけ決してその本名を呼ばず、また同国の小農輩キリスト昇天日の前の第二週の間鼠蛇等の名を言わず、いずれもその害を避けんためだ(ロイド『瑞典小農生活ピザント・ライフ・イン・スエデン』)。カナリース族は矮の本名を言わずベンガルでは必ず虎を外叔父ははかたのおじと唱う(リウィス『錫蘭セイロン俗伝』)。わがくににも諸職各々忌詞いみことばあって、『北越雪譜ほくえつせっぷ』に杣人そまびとや猟師が熊狼から女根まで決して本名をとなえぬ例を挙げ、熊野でもうさぎ巫輩みこども狼を山の神また御客様など言い山中で天狗を天狗と呼ばず高様たかさまと言った。

出典 : 『十二支考』 – 「虎に関する史話と伝説民俗」(南方熊楠)

世界各国でクマやオオカミなど恐怖の対象の名前を口に出さないようにしているというのは、おもしろいですね。忌み言葉によって忌避されるべき対象は、恐ろしいもの(恐れ多いもの)であったり、不吉なものやこと、不浄のものであったりというパターンに収斂されそうです。

英語では、どんな表現があるか考えてみました。Gee.Oh, my goodness.Gosh. などの口語表現がすぐに思い当たりました。これらは、すべて GOD を忌避する表現だと言われています。この背景としては、やはりモーセの十戒の「あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない」(Thou shalt not take the name of the LORD thy God in vain ※)があるのでしょう。映画などでは、Oh, my god! というセリフなんかはよく聞くような気もしますが、こうした表現は人によって許容度はバラバラです。気をつけて使いたいものです。
※ thou は、you の古語。shalt は、shall の古語(二人称現在形の活用)

おまけ : 古代の日本においては、敵対する勢力に忌むべき名前をつけたりしていたようです。まつろわぬ人々(先住民)を「悪し奴あしぬ」と呼び、それはいまも(奈良の)「吉野」という地名として残っているという説を読んだことがあります。植物の「アシ」(葦)が「悪し」につながるということで「ヨシ」と呼ばれるようになったのと同じで、後世になってから地名の文字を変更したという説です。「熊野」の「熊」も「熊襲くまそ」の「熊」であり、「蜘蛛」であり、「雲」というよくない言葉が起源だということなんですが……。

photo : “Oh my god” by Francisco Martin


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