大家好! それにしても暑い、と毎日つぶやいている xiaofan です。日本はだいたい温帯にあたりますが、台湾の気候は、北部と南部で少し違うんだそう。台北は亜熱帯、南部の高雄や台南は熱帯に位置します。なんだか「亜熱帯」「熱帯」と聞いただけで暑く感じてしまいます。ええ、実際暑いのですが。
さて、同じ漢字圏なので、街中を歩いていてたとえ中国語がまったくわからなかったとしても、ここは診療所なんだな……とか、喫茶店なのか……などということは看板でおおよそ推測が効くのですが、一つ不思議な文字がありました。それは當の 1 字。日本語の字体に直すと当です。これってなんの意味だろうなあと疑問に思っていました。それが一転、これってもしかして…と思ったのは、中国語の授業中に観た映画の 1 シーンでした。
映画は『今天不回家』( = 今日は家に帰らない)といって、60 歳になったばかりの歯科医である主人公が浮気を始めたことをきっかけに、家族内での問題が次々と表面化し、世代間の距離、関係性のあり方をそれぞれが見つめ直す、というもの。習ったばかりの単語が出てくる喜劇タッチの物語を観ながら、毎回こういう授業だといいのに……と要らんことを思いながら観ていました。その当該の場面は、歯科医の息子が事業の資金繰りのため、金貸しらしき場所を後にしたシーンでした。彼の向こう側にたくさんの「當」と書かれた看板が映し出されたのです。それでわかったのでした。その文字は質屋を表しているのだ、ということを。
それで思い出したのは、映画を観るよりも少し前、友達に「この本、売れてるんだって」と教えてもらった 1 冊の本でした。『29 張當票』( = 29枚の質札)という本で、2013 年にはシリーズ 3 冊めが刊行されています。主人公は質屋の店主で、彼の元を訪ねてくる客や質草にまつわる物語を紹介していくお話です。
それにしてもオモシロいのは、同じ内容を表しているのに、當(当)と質、と台湾と日本では違う漢字を使うなんて、思いもかけぬ違いがあるものです。いったい當(当)にはどんな意味があるのか、手元の中国語辞書を開いてみました。すると、説明がふたつありました。ここでその違いを抜粋してみます。
當(当) dāng
前置詞 : …の時。ことの起きた時間をあらわす。
動詞 : 担当する。任じる。
助動詞 : 当然…すべきだ。
例)當兵 ; 兵隊になる、當地 ; その土地、 當然 ; 当然だ、當選 ; 当選する當(当) dàng
形容詞 : 適当である。ちょうどよい。
動詞 : …に当たる。…に相当する。
名詞 : 質草。
例)當當 ; (品物を)質に入れる、當鋪 ; 質屋、當時 ; ちょうどその時出典 : 『新時代中日辞典』大新書局、2005 年
これに対して、漢和辞典ではどのような説明になっているのか、見てみましょう。
なりたち)
旧字体は「當」。「田」と、ここでは、見合う意(償 しょう)とともに音を示す「尚 しょう」とを合わせた字。二つの田の面積や価値がたがいに見合う、相当する意味をあらわす。
1) あたる。あてはまる。 例)当選 該当 相当
2) あたりまえ。そうあるはず。 例)当然 妥当 適当 不当
3) ひきうける。任務とする。 例)当直 担当
4) ちょうどそれ。事物を示す名詞の上にうけて、「その」「この」「いま」などの意味に使う。
例)当時 当人
5) まさに…すべし。当然…である。
6) 質。質ぐさ。 例)抵当出典 :『角川最新漢和辞典 改訂新版』角川学芸出版、1989 年
日本語の質(しち)と同義の當は dàng という声調(イントネーション)で発音し、もうひとつの當は dāng という声調で読むのですね。こうやって比較してみると、中国語では漢字 1 字を音で読み分けて意味の混乱を避けているのに対し、日本語では 1 字にいろいろな意味を持たせていることがわかります。
で、調べてハッと気づきました。そう、抵当があるではありませんか! 実は昔から、どうして担保のことを「抵当」っていうんだろうなあ……と思っていたのですが、これも漢字本来の字源をたどって、納得することができました。ちなみに、中国語の辞典では今ひとつピンと来ないとき、漢和辞典を引いてみるとたいてい(へぇ)と思わされます。字源を理解すると、なんだかより深く理解できるような。
さらにこの當のお話。台湾人の友達に「この文字の意味って、お金を借りられる場所のことなんだね」と言ってみたら、「そうそう。昔は銀行がなかったから、質屋でお金を借りてたんだよ。一般市民が銀行で借りられるようになってからは、質屋もずいぶんと減ったんだけれど、実は公立の質屋もあるんだよ」。
なんと、公立の質屋!!! さっそくググってみると、ありました。本当に。こちらのサイト によれば、1952 年当時、民間の金利の高さを問題視した政府によって、市内 4 カ所に公営の質屋を設立した、とあります。台湾の歴史的には、中国国民党政府が 1949 年に台湾に渡り、その後、月額の利率が 23% という急激なインフレが起き、貨幣改革を行いました。現在では「當舖業法」(つまり、質屋業法)という法律によって、営業が行われているのだそうです。
1 枚の看板から台湾の金融史まで、幅広くなってしまいました。そうそう、ちなみに日本語の看板、台湾でも「カンバン」と日本語と同じ発音で通じますよ。
繁体字どころ台湾から xiaofan でした。再見囉~!
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